top of page

偏愛カウンター席 太田亜矢子とニット

ー こんばんは!何かしらの偏愛をお持ちのお客様にその愛の丈を余すところなく存分にお話して頂く「偏愛カウンター席」本日の偏愛カウンター席には繊維商社ニット企画として多くのニット製品の企画を手がける太田亜矢子さんに来て頂いております。9月に入り、灼熱の季節の山場は超えたのか否か、それにしてもまだ暑いよ...ニットの話すんなよ...って?イヤイヤ、毎年皆さんも感じてると察しますが、秋なんて駆け足どころかガンダッシュで過ぎ去り、お待ちかねの冬が巡り来るのです。思い出しましたか?昨年の身も(心も) 凍るような極寒。大雪の日のニュース速報。そしてお気に入りのセーターを着てみんなで突っつく鍋の幸福感...。AWの商品が既に立ち上がり、あっという間にまたニットが恋しくなる季節が巡って来るのですよ。皆さん!本日はちょっと (いやかなり) ニッチなニットにまつわる世界をお勉強がてら聞いてみましょうよ。ということで、太田さん!偏愛カウンター席へようこそ。

Ohta (以下O) こんばんは! 本日は「ニット」についてお話しようと思います。

ー ニッチですね (笑)

O ニッチなのかなぁ (笑) …っていうか、そもそもニットを認識している人がどれだけいるのかっていうのもあるよね。

ー 確かにそうですね。ニットのことについてよく知らない方も多いと思うので少し基本的なところからお話して頂きたいです。まずニットの定義とはなんですか?

O はい。まず織物は縦糸と横糸を交差させて織っている生地で、ニットは一本の糸を絡ませながら作っている生地 (編み物) です。例えばカーディガンとか靴下とかヒートテックとか…

ー ヒートテックもですか?

O カットソーだけどね。広義で言えばカットソーもニットだけど、分けるとしたら成型してリンキングして服の状態にしてるのがニットで、織物みたいに反物の状態にしてから縫製してるのがカットソーだね。で、私の専門はカットソーではなくて「ニット」になります。

ー ではそのニットについて、どういったものなのか説明をお願いします。

O 私が思う「布帛とニット」の一番の違いって、布帛は生地をパターン通りに切るけど、ニットはパターン通りに編むから、編み終わったらその形になってるところ。それって結構衝撃的じゃない?小学校の頃からお母さんに教わって、手編みの帽子とかマフラーを作ってたけど、それらは形を作るって概念がなかったの。マフラーは形が真四角で、増し目とかしないしね。でも帽子は気付いたら帽子になってた…みたいな (笑) 多分知らないうちに目が減って頭の先になって帽子になっていたっていうかんじ。その後、文化 (服装学院) に入ってニット科に進学して「ニットってこう作ってるんだ!」っていうのを知って…だからニットの成り立ちを知ったのが割と私は遅いんだよね。かぎ針のことに関してはわかってたんだけど、横編みはこうやったら形になるんだ…みたいな。

ー 横編みというのは、工業用編み機のことですか?

O そうそう。棒針も一緒だけどね。一番最初にパターンを引いて、パターンを目数と段数で計算するの、ニットって。例えばカーブしてたらカーブが内向きか外向きかで、減らし目の仕方が変わってくるんだよね。何目減らすっていう最終的な数は一緒なんだけど、その減らし方によってカーブが膨らんでいくか凹んでいくか変わってくる。だから袖山とかも鎌底から一回凹んだカーブ、袖山でもう一回膨らんだカーブになるのね。だからそれを計算で出すっていうのが結構やばいことしてるって思って...。

ー やばいことしてますね (笑)

O 学生の頃、先生に教えてもらった通り計算するところまでは、なるほどってかんじで、実際その計算通りに編み機で編み終わって、そのパターンの上に編み地置いて、合わせながらプレスしたら「パターン通りになってる…!」って思って衝撃的だった。普通にすごくない?線とか引かなくても (最初のパターンの段階では引くけど) 裁断せず計算だけでこの形ができてるっていう。一年生の時の基礎科では布帛しか学ばないから、普通に生地があって地の目に合わせて裁断するのが普通と思っていたところで、ニットは編み終わったら形が完成した状態。これが一目一目の計算の減らし方でラインが変わってるんだと思ったら、めちゃくちゃ面白いなと思ったんだよね。そこはなんかね、萌えポイント。でも、そもそもなんでニット科に行こうと思った理由としては、工業機見てからっていうのがあるかな。

ー 太田さんは工業機が好きですよね?

O そうだね~。ニットって手編みとかかぎ針とか、おばあちゃんがやってるみたいなほっこりイメージがあると思う。そのイメージの中で、ニット科の見学でコンピューターの編み機を見た時に、「コンピューターで編む…!?」ってそれも結構衝撃で...でも確かに手編みよりも目が細かいものとかいっぱいあるし、コンピューターで作られていることにも納得したんだよね。元々、高校でプログラミングやってたから、そもそも機械好きなんだよね。

ー 承知してます (笑)

O そう (笑) だから、どういう命令でコンピューターの中が動いているのかを、すごい基礎的にはわかってて、それでニットを動かすんだっていうのにもアツさを覚えてしまって…で、ニット科進学決定 (笑) 絶対アツイじゃん!てなって。ニット科でもハンド (手編み) が好きな子が入ってくることが多いから、私は稀なタイプだった。でも工業機もコンピューターも元は一緒で、コンピューターってめちゃくちゃ頭よく見えるけど、実はバカなんだよね。

ー 詳しく教えてもらえますか!?

O そう。コンピューターって最終形態、何で物事を判断してるかっていうと、「電気が点いているか点いていないか」だけなの。で、数学でいうと二進数っていうんだけど。0から9までの十進数で普段私たちは数字を見ていて、0から9、そこから10になって100になってとかね。コンピューターは0から9もわからないから、0と1でしか数字を判断できない。スマホもそうだし機械全般、多分みんなそうだと思う。例えば、プログラミング言語でプログラムを書いて、その後のビルドっていう工程でコンピューターがわかるように0と1の数字だけに変えて指示を出してる。だからエクセルも0と1で動いてるし、インターネットも0と1で動いてる。

ー 例えば、「0.0.1=○○をする」 っていう配列で意味を成していると?

O 配列で意味があるっていうか…ぅ~ん…そうそう…なんていえば良いんだろう。すごい簡単にいうと、「0.0.1=PCが立ち上がります」とか、そういうかんじ。膨大な「0と1」の最終形態がこうなるってかんじになるわけ。だからその「0と1」を読み解く能力はめちゃくちゃ高いんだよね、コンピューターは。だからすごい数の計算とかは処理能力が早いからできているけど、実際にわかっているのは「0と1」だけ。

ボーダー作成の際の編み機の動きを示した図。1段毎のボーダーの方が2段毎のボーダーに比べてキャリッジがたくさん動いていることがわかる。

O 「0と1」だけで動いていることを前提に、ニットのプログラミングを考えると、何故できないのか、どうしたらできるのかも理解して考えられる。高校の時はゲーム作ったりしてたんだけど、私はクマがいろんな果物を拾ってゴールに辿り着くっていうゲームを作ってたのね。クマが果物に触れたらカゴの中に果物が増える、ヘビに触れちゃったらゲームオーバーの画面出す、ジャンプできたらそのまま続ける、とかいろんな条件の中で成り立っていて、全部条件でできてる。ニットもそれと一緒で、ボーダー作ろうと思っても、黒、黒、白、白って二段ずつのボーダーになったら、糸が白と黒で変わるけど、常に色が変わるのは同じ側だから楽。でも一段ごとのボーダーにしようと思ったら、すごい効率悪いなって思ってたりとか、そういうのも面白い。それで世界中の人のニットができあがっていると思ったら、めちゃくちゃアツイなって思った。だから工業機は好きだね。手編みだったら効率悪いのに、工業機だったら簡単にできるとか、両方良し悪しはあるんだけど、それも面白さのひとつかな。製品を見たら、これは工業機だな、これはハンドだな、ホールガーメントだなってわかったりして、最近は面白いニットがいっぱい市場にあるから、それだけでちょっとテンションが上がるというか、得してるなって思う。

ー 太田さんの中での「萌えニット」教えてください。

O えーなんだろう!ずっとこれやばいなって思ってるのは「COMOLIの丸ヨークのニット」最近買いました。

ー どんなニットですか?

O COMOLIのニットはハンドニットなんだけど、丸ヨークっていうヨーク部分を丸のままで編んでる。普通は横方向じゃん。でもこの「右袖、前身頃、左袖、後ろ身頃」って全部繋げながら編んでるのが丸ヨーク。アームホールの下までは服は別れてるじゃん、右袖と身頃と左袖に別れてるはずなんだけど、そこから先が繋がっていく。だからホールガーメントは、右袖編んで、左袖編んで、身頃も一緒に編んで、全部機械の上に目が残っている状態でこの上を編んでいくんだけどさ、ハンドは袖編みます、前身頃編みます、後ろ身頃編みます、それを繋げて途中のこの一緒になるところまで接いでからまた目を拾って、ここをわざわざ輪で編んでいくっていう。ただ編んだら筒になっちゃうじゃん。でも人間の肩と首まで沿わせないといけないから、それも全部計算でできてるの。それがね~COMOLIのがね~ヤバいんだよ。

ー つまりはこうなってこうなって…

O そう、こうなってこうなって…こっから先は...

ー ということはここの直線上を輪で編んで、ここの部分を丸で編んでると?

※「こうなって」は下記図参照↓

上段:ホールガーメントの説明図。どこにも接ぎがなく、目を形に合わせて減らしていっている。下段:丸ヨークのニットの説明図。ヨーク部分からは筒状に編まれていることがわかる。

O そう。だからホールガーメントと一番早く手っ取り早く見分けがつくのは、「身頃と袖下に接ぎが入っていてその上からは接ぎがない」のがニットの丸ヨークの商品。丸ヨークってやり方が珍しいし、ハンドかホールガーメントしかできない。自動機でも家庭機でもできない方法だから、面白いってのもあるけど、それだけじゃなくて、素材とゲージとその丸ヨークっていう技法の合わせ方が絶妙。

ー もう少し詳しく教えてもらえますか?

O 例えば、丸ヨークとかハンドニットとかって、さっきも言ったけどおばあちゃんの古着っぽいニットとか、昔の漁師のニットとかほっこりしたイメージじゃん。でもそのCOMOLIの丸ヨークのニットは混率がね、シルクモヘアウールで。まずそれ聞いた時点でハンドニットぽくないよね?

ー 確かに。ローゲージのハンドニットのイメージはあんまりないですね。

O じゃん!で、それがこの太さになって編まれているという… 光沢があってギュッと詰まってるかんじでケバケバしていない。でもモヘア入っているから膨らみはある。そう、この混率が絶妙なんだよな~。多分撚り合わせてるとかではなくて普通に混紡(綿の時点で混ざってる)だと思う。その糸選ぶ時点でヤバいじゃん。

ー どこの糸なんでしょうね。

O そう、どこの糸なんだろうなって思ってるんだけど、小金毛織ではないって小金毛織の方が言ってた (笑)

ー なるほど (笑)

O だからその、ほっこりしない糸でほっこりした形を編む。しかも丸ヨークって中間減目で全体的に目数を減らしていく方法で、首元まで少しずつさ小さくしていくからさ、柄入れることが多いの、ケーブルでここが太くて徐々に小さくなるとか、なんか普通の方法じゃないからこそ逆に柄入れてわかり易くしてるみたいな商品が多くて、丸ヨークにすごい意味を持たせる商品が多い中…

ー 丸ヨークですよ!アピールですね。

O そうそう、伝統的なこれですよっ!みたいな。ハンドしかできないんだよこれ!みたいなかんじだけど、COMOLIは天竺一択。めっちゃストイック(笑) 襟と袖口と裾はリブだけど…天竺一択。

ー ハンドだからゲージはないけど糸の太さはどのくらいなんですか?

O 1番単糸くらいかな。

ー と、いうことは…

O 1.5ゲージにぎゅうぎゅうにすれば工業機でも入るかなくらい。

ー ってことは普通にめっちゃ糸太いですよね。

O めっちゃ太い。

ー っていうことは目は詰まってるけど、普通にほっこりなローゲージ。

O ローゲージ…でもギュってしていてケバケバしてない。でもケバケバしてないけどちゃんとウールの風合いはありつつ、光沢があるんだよね~。

こちらが萌えニット実物。太田さんの私物。

O しかしですね、COMOLIの17-18AWでですね、モヘア混ではなくアルパカ混に変わるという大事件が起きてまして。

ー それは大事件ですね (笑)

O アルパカ混になったら「あぁ…違う…アルパカじゃなくてモヘアだったよね…」ってあくまでも個人的にだけど思ってしまって (笑)

ー チクチクしないんですかね?

O チクチクしない!多分モヘアはキッドモヘアとか良いモヘア。アルパカはチクチクしないけど、カジュアルに寄っていってると思う。そう、かわいいんだよ...これはまじでかわいいんだよな~。 これはねめちゃくちゃかわいいから最近買っちゃった。中古でしかモヘアのものはもう手に入らないからね。

ー 確かにそうですね。

O あ、でも18-19AWはどうなるかわかんない!15AWくらいから定番でやってて、色とかサイズ感とか若干変わりながらやってるからね。

ー その中で混率も変わってきたと。

O そう!「あぁ…アルパカ…違うじゃん…」ってなって中古を探す日々 (笑) やっと春頃になって買うっていうね。だから私は冬が戻って来て欲しいの。

ー 他に言い残したことはないですか?

O なんかもっと言いたいことがあったはずなのになって思う。ニットはすごいんだよな~ (笑) だってなんでもできるじゃん。糸から考えられるからさ。同じ糸でも布帛だったら、織り方とか変えられても、レースにできたりしないじゃん。ニットは天竺にもリブにもできて、布帛みたいにミラノリブにもできるし、レースみたいにアイレット空けることもできる。ニットは変幻自在。これを語り出したら終われないけど…やっぱ私がね思うのはね~…天竺がやばい。

ー 詳しくお願いします。

O 天竺がやばいっていうか、そもそもニット編むってなったらリブでも天竺が表裏表裏ってなってるだけで。ずっと思ってるのは、天竺ってさ耳まくれするじゃん?その端が内側に丸まったり、上下の端が外側に回っちゃったり。それって糸が縦横に交差してなくて、一本のループをこう重ねているから同じ方向に力が掛かっちゃって丸まるじゃん。その丸まる力があるから、リブが縮まるんだよね…。

ー それが表裏にあるからその力で縮まってリブになると。

O そう。内側に丸まる力が表目にあるじゃん、表目がある面を裏にしたら、こいつとこいつの力で縮まってリブになるのやばくない?全部そうなの。だから、全てはこの力がどう掛かっているかによるんだよね。その反りの方向とか結構考えるとね~眠れないね(笑)ふふふふ。だってリブ考えた人すごくない?大昔から、アラン柄とかさ、リンクス柄とかあるわけだからさ...どうしてそれを交差しようと思ったんだろうと思うと… あとあれもやばいと思うんだよね。アイレット柄。なんか寄せ目で裾がフリフリになるとかさ…

ー フリフリといえば、1.2年前フリルが流行った時のタコ足みたいなフリルを思い出します。

O それね。それも面白いじゃん!目数は変えていないのに、フリフリになってる。幅が出る編み地と幅が出ない編み地を組み合わせて、裾の幅が余ってるからフリフリになってる。目数は一緒だけど幅に差が出るから、布帛みたいにギャザー寄せて縫ったりしなくても、縫い目がない状態でフリフリになる...不思議。フレアのスカートも布帛だったら何枚も接ぎ入れるか、パターンをサーキュラーに取るしかないけど、ニットは同じ目の方向を向きながらやるからね。あとスカラップも編みで裾ギザギザにできるんだよね。それも目が重なってる箇所と、穴が空いてるところで、「ウーンっ!(体全体で再現)」ってなる力が違うから。

ー 自分でニットの編み目再現する人初めて見ました (笑)

O 重なった部分は力が強くなって張りだすっていうみたいね (笑) なんかそういうところが萌えポイントかな。それは布帛にはないからさ。そこが違いなのかな。難しいね。でも面白いんですよ。

ー 明日は何するの?

O 明日は仕事です!担当ブランドの展示会サンプルの検寸と検品やります! (笑)

皆さんの今年のニット選び、きっと太田さんの顔が浮かびますね (笑) 店主もできたら太田さんに一緒にお買い物してアドバイスもらいたかったけど、今年はinフィリピンなので来年ですね。宜しくお願いします。ということで、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!次回もお楽しみに!

<profile> 太田 亜矢子 / 某繊維専門商社 ニット企画 / 1993年9月25日生まれ / 岐阜県出身 / 岐阜県立武義高等学校情報処理科卒業→文化服装学院ファッション工科専門課程ニットデザイン科卒業 / Feel the Yarn出展 / Tokyo新人ファッションデザイナー大賞アマチュア部門入選 / 好物は日本酒と珈琲 / Instagram @oht0925

最新記事
アーカイブ
タグから検索
まだタグはありません。
bottom of page